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フェルミオン型量子近似最適化アルゴリズム(FQAOA)のご紹介
はじめに
量子コンピュータは、従来のコンピュータでは解くことが難しい問題に対して革新的な解決策を提供する可能性を秘めています。特に、物流ルートの最適化、製品設計、金融ポートフォリオの最適化など、その解が社会や経済に大きな影響を与える組合せ最適化問題は、実社会において非常に重要な課題です。 しかし、従来のコンピュータでは、問題規模が大きくなるにつれて解くことが困難になるケースが多く存在します。そこで、TISの戦略技術センターでは、このような組合せ最適化問題を効率的に解くための新しい量子アルゴリズム「フェルミオン型量子近似最適化アルゴリズム(FQAOA)」[1], [2]を大阪大学 QIQBとの共同研究を通して開発しました。
次に、TISが量子コンピュータの研究に取り組んでいる理由について触れます。TISは、将来のビジネスにおいて重要な役割を果たす可能性がある量子技術の理解と活用に積極的に取り組んでいます。特に、複雑な組合せ最適化問題や金融分野での効率化ニーズに対応するため、量子アルゴリズムの開発を進めることで、顧客に新たな価値を提供し、先進的なITソリューションをリードすることを目指しています。
組合せ最適化問題に取り組む研究者や、量子アルゴリズムに関心のある方々は、本稿の内容にご注目ください。
フェルミオン型量子近似最適化アルゴリズム(FQAOA)とは
FQAOAは、電子に代表されるフェルミオンと呼ばれる粒子の運動を量子計算に利用することで、制約条件を含む最適化問題を効率良く解くことができるアルゴリズムです。例えば、資源配分やポートフォリオ最適化など、様々なビジネスシーンで発生する複雑な問題を、より迅速かつ正確に解決できる可能性があります。
FQAOAおよびQAOAでは、簡単に準備できる状態(初期状態)に量子ゲート操作を施すことで状態を更新し、最低エネルギー状態(つまり最適解)に 近づけます。図1に模式図を示します。

従来のQAOAアルゴリズムとの違い
量子アニーリングや従来の量子近似最適化アルゴリズム(QAOA)は、スピンの性質を利用して、エネルギーの低い状態を探索するアルゴリズムです(図1上)。しかし、制約条件を扱う際に、ペナルティを導入する必要があり、最適解探索が難しくなる場合があります。
FQAOAは、フェルミオンと呼ばれる粒子の性質を利用したアルゴリズムです(図1下)。粒子数保存則という物理的な法則を利用することで、制約条件を自然に組み込むことができるため、より効率的に最適解を探索することが可能です。このFQAOAの枠組みは、量子アニーリングを特別なケースとして包含するように設計されているため、制約条件を厳密に満たす量子アニーリングを実行することも可能です。以下では、簡単なポートフォリオ最適化問題を例に、FQAOAと従来のQAOAの性能を比較したノイズレスシミュレーションの結果を示します。
図2では、QAOA回路およびFQAOA回路を用いた量子アニーリングの結果を示しています。FQAOA回路は常に低いエネルギーを与え、良好な性能を示します。しかしながら、最適解を得るためには多くのゲート操作が必要になるため、ノイズの多い中規模量子コンピュータ (NISQ) には不向きです。

QAOAおよびFQAOAでは、変分パラメータを導入することでゲート操作の数を減少させる工夫がなされています。このパラメータは古典計算で最適化され、その数を増やすことで近似レベルを調整できます。図3にその計算結果を示します。FQAOAは、以下の点において従来のQAOAを上回ります。
- 初期状態: 粒子数保存則を満たす初期状態からスタートできるため、ペナルティの影響を受けない。
- 制約条件: 制約条件を自然に組み込むことができるため、任意の近似レベルで厳密に制約条件を満たす。
- 収束性: 制約を満たす空間に探索空間を制限することで、より低い近似レベルで最適解に収束する可能性が高まる。

FQAOAは、多様な分野の最適化問題に応用できる可能性が期待されています。具体的には、資源配分、施設割り当て、ポートフォリオ最適化など、複雑な制約条件を含む問題に対して、FQAOAは有効なツールとなる可能性があります。
一方で、画像処理のセグメンテーションや社会ネットワーク分析など、等式制約条件が明示されない問題においては、上記のFQAOAによる効率化は期待できず、従来のQAOAで対応できる場合があります。また、古典計算手法と量子計算の比較に関しても注意が必要です。現時点では、量子コンピュータの性能はまだ発展途上にあり、従来のコンピュータと比較して明確な優位性を示すことは難しいですが、今後の技術進展が期待されます。
まとめ
TIS戦略技術センターが開発したFQAOAは、従来の量子最適化アルゴリズムに新たな視点を与える画期的なアルゴリズムです。特に、等式制約を厳密に扱うことができるという特徴は、従来の量子最適化手法では解決が難しかった問題に対して、新たな可能性を切り開きます。今回、4量子ビットの小規模な問題に対するシミュレーションを実施した結果、最も荒い近似で最適解の発見確率が従来の14%から90%に向上し、FQAOAの有効性が実証されました(図3 (b)参照)。 より大規模なポートフォリオ最適化問題に対する適用結果については文献[1]、実機での実験結果については文献[2]をご参照ください。これらの結果から、FQAOAは、ノイズのある中規模量子コンピュータ(NISQ)においても高い性能を発揮することが期待されます。
展望
FQAOAの普及に向け、Entropica Labs社との連携を強化し、同社のオープンソースソフトウェア「OpenQAOA」[3] にFQAOAを統合するプロジェクトを推進中です。OpenQAOAは、量子近似最適化アルゴリズム (QAOA) の開発を促進するプラットフォームとして注目されており、FQAOAの導入により、機能がさらに拡充されます。FQAOAの統合は、量子コンピューティング分野の発展に大きく寄与することが期待されます。
謝辞
今回の大阪大学 QIQB との共同研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)「量子ソフトウェア研究拠点」(JPMJPF2014)における共同研究の一環として行われました。
[1]: T. Yoshioka, K. Sasada, Y. Nakano, and K. Fujii, “Fermionic quantum approximate optimization algorithm”, Phys. Rev. Research, 5, 023071 (2023).
[2]: T. Yoshioka, K. Sasada, Y. Nakano, and K. Fujii, “Experimental Demonstration of Fermionic QAOA with One-Dimensional Cyclic Driver Hamiltonian”, 2023 IEEE International Conference on Quantum Computing and Engineering (QCE) 1 300-306, arXiv:2312.04710 [quant-ph] .
[3]: Entropica Labs Pte Ltd, OpenQAOA, https://openqaoa.entropicalabs.com/
