はじめに

TIS株式会社、戦略技術センター所属の井出です。2017年から戦略技術センターでXRの研究開発を行っています。
本記事ではTISと東京都市大学で共同研究を行っているVR空間でのコミュニケーションに関する研究を紹介します。

VR空間でのコミュニケーション研究はTISと東京都市大学市野研究室の共同研究、及び東京都市大学の総合研究所内に設置されたソーシャルVR研究ユニットという体制で行っています。ソーシャルVR研究ユニットはVRに空間におけるアバターを介した人と人のコミュニケーションを様々な視点から実験、分析、評価するため、HCI、VR、社会心理学、認知科学、生体情報学といった多様な背景をもった研究者で構成されています。TISからは井出と芳木が参加しています。

ソーシャルVR研究ユニットではVR空間におけるアバターを介してコミュニケーションされるソーシャルキュー(外⾒、視線、顔の表情、ジェスチャー等)の提⽰⼿法に焦点を合わせ、アバターを介した⼈と⼈のコミュニケーションに影響を及ぼす要因およびその影響を学際的視点から総合的に解明し、コミュニケーションインフラとしてのソーシャルVR設計ガイドラインをエビデンスに基づき作成することを目指し、研究に取り組んでいます。ソーシャルVR研究ユニットの詳細についてはこちらを参照してください。

今回はソーシャルVR研究ユニットでいくつか行った実験の中から、アバターの外見に着目した実験の結果についてご紹介します。

VR空間でなら、人は心をオープンにするのか?

オンラインコミュニケーションに関する先行研究から、テキストチャットや携帯電話の音声通話は対面の会話よりも自己開示や議論への参加の平等性が促されることが分かっています。では、今後普及が見込まれるVR空間では、アバターを介したコミュニケーションは自己開示や議論への参加の平等性にどのような影響を及ぼすのでしょうか。関係性を明らかにするため、以下のアバターの外見とコミュニケーションに関する実験を行いました。

  • アバターの外見が対話における自己開示や互恵性に与える影響
  • アバターの外見がグループディスカッションの参加のバランスに与える影響

 

アバターの外見が対話における自己開示に与える影響についての実験では、

  1. Zoomによるビデオチャットの会話
  2. ユーザーの外見と似ているアバター同士の会話
  3. ユーザーの外見と似ていないアバターの会話

の3条件で実験を行った結果、アバターでは外見の似る似ないに関わらず、自己開示が促される。互恵性に関しては、アバターは、ビデオチャット以上に自己開示をする上で適したツールであることがわかりました。

 

アバターの外見がグループディスカッションの参加のバランスに与える影響についての実験では、

  1. ユーザーの外見と似ているアバターでのグループディスカッション
  2. ユーザーの外見と似ていないアバターでのグループディスカッション

の2条件で実験を行った結果、ユーザーの外見と似ていないアバターのグループのメンバーはユーザーの外見と似ていないアバターでのグループに比べ、発言量も減らずバランスよく発言していることが分かりました。また、ユーザーの外見と似ているアバターのグループでは特定の参加者が、連続して話題をキープする割合が高くなることが確認できました。

ユーザーの外見と似ているアバター(左図)とユーザーの外見と似ていないアバター(右図 宇宙人とよくいわれる)
ユーザーの外見と似ているアバター(左図)とユーザーの外見と似ていないアバター(右図 宇宙人とよくいわれる)

より詳細な研究内容については東京都市大学の「未来都市」というウェブサイトでインタビューが公開されていますので、こちら(前編:市野先生後編:井出)をご参照ください。

実験のためのVRシステムは、TISが公開しているVirtualCollaboBase というソーシャルVRプラットフォームを構築するためのOSSをベースとして井出が実装しました。

対話実験の様子
対話実験の様子

研究成果に対する反応

研究成果は論文としてまとめ、研究会、学会、セミナー等で発表を行っています。
国内最大級のHCIに関するシンポジウム「インタラクション2022」ではアバターの外見が対話における自己開示や互恵性に与える影響に関する論文が論文賞候補(全体で2番目)に選ばれました。また、研究成果についてTIS及び各大学連名でニュースリリースを発信したところ、多様なメディアに取り上げていただきました。一部のメディア記事についてはTwitterでたくさんのいいねやリツイートされており、VR空間でコミュニケーションすることへの関心の高さを感じました。

終わりに

VR空間でのコミュニケーションに関する研究は正直まだまだ未知の領域です。
ソーシャルVRでのよりよい体験を構築するためのデザインとは何かを明らかにするために、これからも一歩一歩着実に研究を進めていきます!