はじめに

新規事業開発は、不確実性と不透明性に満ちており、仮説検証サイクルを繰り返しながら「学び」の量を最大化していくことが必要です。本書では、主に新規事業初学者に向け、試行錯誤のプロセスについて説明しています。本書が「先進技術を用いた将来に成長を見込める新規事業の立ち上げ」の一助になれば幸いです。

 

対象読者

本書は、新規事業に興味がある、挑戦してみたいなど熱意のある事業企画・事業開発未経験者に向けて作成しました。事業検討におけるポイントを一般的な事業検討の流れに沿って構成しており、事業検討開始時や次に何をすべきか悩んだ時、および、事業開発を行うメンバー間の相互理解のためにご一読ください。

 

本書の構成

本書は、大きく2つのパートに分かれています。それは、事業検討フェーズと事業化フェーズです。

事業検討フェーズでは、自身のアイデアを企画化し、市場調査、ビジネスモデル図の作成までを行います。

事業化フェーズでは、マーケットに対して企画を当てて、マーケティング/セールス戦略の立案、PoC等を経て事業化を目指します。

なお、本ガイドではそのプロセスを順に記載していますが、必ずしもこの順番で進める必要はなく、状況に応じて臨機応変に進めて構いません。また、不要と判断する場合はスキップしても良いでしょう。

 

新規事業開発の意義

市場では常に新技術や競合が生まれ、企業の生存には新たな価値が必要です。そして企業は、既存事業の売上がある間に新規事業を作り、未来を切り開いていく必要があります。

新規事業の出発点は日常課題であり、他人にも通じる課題を見つけ、解決策を考えることが重要です。一方で、自分だけの課題に固執せず、幅広い視野を持つことも求められます。

 

事業検討フェーズ

事業検討フェーズは、「誰」のどのような「課題」をどう「解決」するのか、といった事業アイデアの骨子を検討するフェーズです。事業アイデアを具体化し、課題が本当に存在するか、解決策が適切かを調査/検討します。

 

事業検討の進め方

新規事業の検討ステップは以下となります。

  • ①課題の調査:身近な困り事/その原因を探す
  • ②技術の確認:解決に必要な技術があるかを調べる
  • ③市場/競合調査:市場規模を概算し全体像を捉える
  • ④解決策の具体化:誰に何を提供するかを考える
  • ⑤ビジネスモデルの構築:リーンキャンバス/ビジネスモデル図に落とし込む

 

課題の調査

日常の不便や疑問を課題として集め、深く理解することが新規事業開発の第一歩です。課題に対する理解が深いほど解決策が浮かびやすいので、自身や身近な人が抱える課題から始めるとよいでしょう。課題に対する市場規模をオープンデータで推計しましょう。重要なのは、事業化した際の売り上げ規模を具体的にイメージすることです。

 

▶ 「取り組むべき課題」を明確にする

「取り組むべき課題」を明確にするには、まず新規事業によって実現させたい世界を具体的にイメージし、「理想(あるべき姿)」として言語化します。次に、その理想が実現できていない理由を考え、現状の問題点を挙げていきます。そして、理想と現状のギャップから「取り組むべき課題」を浮かび上がらせましょう。

 

技術の確認

課題の解決策を考える前に、既存の解決策に関する技術や、新たな解決策につながり得る技術について知っておくことが望ましいです。課題は必ずしも技術に基づいて解決される必要はありませんが、知っておくと解決策の選択肢が広がります。自社にノウハウのない技術であれば、その技術を得意とする会社や既存サービスについても調べておきましょう。

 

▶ 技術をどのように事業の強みに昇華できるかを検討する

ある技術が課題の解決に有用であっても、それが誰でも簡単に活用できるものであればそのままでは競争となり得ません。課題に対して技術が有用か調査するだけでなく、もう一歩進めて、どうすれば事業としての強みに昇華できるかも合わせて検討することが望ましいです。自社の強みとの組み合わせや、他社との提携も検討しましょう。

市場/競合調査

新規事業では市場理解が重要です。漠然としたリサーチは時間浪費に繋がるので、詳細なリサーチをする前に、デスクリサーチで市場規模を概算すべきです。正確な調査が難しい数値はフェルミ推定という手法を用いるとよいでしょう。

推計の参考情報として「矢野経済研究所」等のWebサイト、「業界地図」「四季報」等の書籍も有用です。

 

▶ 市場分析

新規事業の戦略立案時には、PEST分析(「政治」「経済」「社会」「技術」の視点)を用いて数年先を予測し、市場理解を深める事が重要です。予測期間は「3年以内」など、期間を設定するとイメージしやすいでしょう。また、対象の市場が今後どのくらい伸びそうか、「市場成長率」を計算しておくのも有効です。

 

▶ 競合分析

新規事業では競合のいない市場を見つけることは難しく、既存の競合の戦略を理解する事が重要です。競合分析の手法として、4Pにターゲットと提供価値を加えた「4P+誰に何を分析」が有効でしょう。何をもって競合とするのか、基準をつくった上で情報を集めます。また実際に製品に触れたり、顧客の声を聞いたりする事も重要です。

 

▶ 勢力図

勢力図作成時のポイントは「市場の50%を押さえている」ことです。トータルの市場シェアが50%を超える競合企業群を分析対象とし、顧客の選択基準となる要素を軸に設定してポジショニングマップを作ります。複数のマップを比較し、競争優位性を見つけましょう。また競合企業の売上規模も把握し、市場参入可否の判断材料とします。

 

解決策の具体化

新規事業の構想を、「新たな技術開発」や「既存サービスのUIUX向上」といった切り口から始めていないでしょうか。もっとも重要な要素は「顧客」と「提供価値」です。よく似た技術やテーマであっても、顧客と提供価値が違えばそれはまったく異なる製品・サービスになります。

 

ビジネスモデルの構築

ビジネスモデルとは「誰に」「何を」提供し、どのように利益を得るかの仕組みです。フレームワークを用いて事業に必要なヒト・モノ・カネの動きや関係性を整理して事業の構造を一覧化し、抜け漏れがないか確認する事が目的です。

 

▶ リーンキャンバスを作成する

「リーンキャンバス」はビジネスモデルを9つの要素に整理するフレームワークで⓪から⑨の番号に沿って必要な情報を書き出します。

  • ⓪インサイト
  • ①課題
  • ②顧客像
  • ③提供価値
  • ④解決策
  • ⑤販路
  • ⑥収益
  • ⑦コスト
  • KPI
  • ⑨優位性

 

▶ ビジネスモデル図を作成する

スキーム図は、事業に必要なヒト・モノ・カネの動きと関係性を整理するフレームワークです。事業の構造を一覧化し、抜け漏れがないか確認する事が目的です。具体的な事業運営イメージを持って製作し、リーンキャンバスを参照して必要要素が全て図に落とし込まれているか、ステークホルダーの抜け漏れがないかを確認します。

 

仮説を立証する

需要のない盲目的な事業内容にならないよう、仮の顧客像や課題が実在するのか、市場調査をする必要があります。顧客のニーズや行動、競合競争状況を理解するため、目的に合わせて調査手法を選び、仮説を立て、検証することが重要です。立案した仮説は、事業戦略・事業案に反映し、リスクを最小化することで成功確率を上げていきます。

 

▶ PoCの実施方法

検討した解決策が本当に顧客環境で機能するのかなど、市場調査やインタビューでは裏付けを取りにくい仮説を検証する一つの手段としてPoC(Proof of Concept)があります。解決策の適用イメージをMVP(Minimum Viable Product)を通じて顧客に体験してもらうことで、仮説に関するより深いフィードバックを得ることができるでしょう。

 

▶ PoCの目的を明確にする

検証したい仮説は何かを明確にし、それを素早く検証するのに必要な最小限のPoCを計画します。仮説を「重要度」と「不確実性」の2軸で評価すると、優先的に検証すべき仮説を選定しやすいでしょう。検証したい仮説が多い場合は、PoCの規模が拡大しすぎないよう、必要に応じて複数回に分割して計画することが望ましいです。

▼仮説検証マップ

 

▶ PoCの評価方法を明確にし、測定可能にする

検証したい仮説が決まったら、どうすればその仮説が妥当だと評価できるかを明確にします。評価軸、測定方法、測定対象、仮説が妥当だと判断する基準などを決める必要があります。PoC実施前に結果と結果に対する考察も予想しておくと、評価方法の不備や検討漏れに事前に気づきやすいでしょう。

 

▶ 評価に必要な最小限のMVPを用意する

対象とする仮説と評価方法が明確になったら、必要な最小限のMVP(Minimum Viable Product)を用意します。MVPには以下のような型があり、目的を達するための最小限の工数で済む型を選定することが望ましいです。

 

▶ PoC を実施して結果を評価し、事業計画に反映する

PoCを実施し、結果を計画時に定めた評価方法で評価します。仮説に疑義が生じた場合は、それを重大なリスクと捉えて対策を検討し、仮説の修正や事業計画の修正を行います。またPoCでは顧客と接することで仮説検証以外にも学びを得られることが多いです。それらの学びも事業計画やプロダクト設計に反映することが望ましいでしょう。

 

よくある失敗パターン

新規事業のよくある失敗パターンは以下があります。

  • 多くの人に当てはまらない
  • 既に他の解決策がある
  • 実現できない理由がある

アイデアは多様な人々の反応を確認し、市場が存在するか、他の解決策が無いか、実現可能であるかを確認すべきです。また、既存特許や法規制等、実現を阻む要素がないかの確認も必要です。

 

事業化フェーズ

事業化フェーズでは、事業検討フェーズで検討したアイデアを実際に事業として成立するところまでブラッシュアップするフェーズとなります。事業の妥当性を検討し、事業が滞りなく行えることを確認した上でマーケットに投下します。

 

技術検証

主軸となる技術から、軽量・小型化といった付随する要素まで、事業に必要な技術要素を洗い出し、技術的に「できる・できない」点を明確にします。もしできない場合は、代替案を考えましょう。

必要な個々の機能要件の実現性を考える中で、それぞれの技術の互換性・統合性を確認し、プロダクト全体として機能要件を充足するかを評価します。この評価は必ずしも一度には完了しないため、少しずつ解像度をあげていきましょう。

 

収支計画

収支計画ではまず、事業に必要なコストを「原価」と「販管費」に反映し、原価率50%未満を目安に、自社の利益と顧客の満足が両立するバランスを探ります。

その後、年間の収支計画を立てます。見るだけで「年間の売上高」「売上高総利益率(粗利率)」「営業利益率」が算出でき、合理的な説明ができることがゴールです。

 

KPI/ロードマップ作成

ツリーの頂点にあたるKGIを「売上」に設定し、「原価率50%」「営業利益率30%」を目指して、中間指標となるKPIに分解したKPIツリーを作成します。

ツリーを作成したら、その売り上げを「いつまでに」「どのように」達成できるか検討し、ロードマップを描きましょう。

 

マーケティング戦略

▶ 限界利益と損益分岐点

KPIツリーに具体的な数値を反映させ、単価と販売量の目安を算出します。

以下2点を認識し、下回らない施策を検討しましょう。

  • 限界利益:一つの製品・サービスから直接的に得られる利益
  • 損益分岐点:黒字化するために必要な製品・サービスの販売数

※限界利益がマイナスになる場合、その事業は成立しません

 

▶ 目標の具体化

目標を具体化させるには、5つの要素からなるフレームワーク「SMART」を活用します。例えば「見込み客を増やす」目標であれば、どの状態が見込み客か、何をもって目標達成かなどを定義します。

定量的に計測できる目標を定義すると、振り返りや改善が行いやすくなり、メンバーの意識を同じ方向に揃える効果もあります。

 

▶ 段階に応じたKPI設定

収益が出るまでには段階があります。ここでは、顧客獲得から収益化までを5段階に分ける「AARRR(アー)」を紹介します。このフレームワークを用いると、段階的なKPI設定が可能です。各段階で、顧客が離脱しないような施策が必要となる点に注意しましょう。

 

セールス戦略

▶ 施策を客観的に評価する

セールス戦略において、複数の類似する選択肢の比較や、さまざまな要素を考慮した上で結論を出す際には、意思決定マトリクスが有用です。

ポジティブ/ネガティブ問わず評価項目を用意し、重要度が高い項目は評価点がほかよりも高くなるように倍率を設定します。主観や直感に頼らず、客観的かつ定量的に評価することが重要です。

 

▶ 顧客の心理段階を把握する

消費者の購買決定プロセスを可視化した「AIDMA」は、顧客の状態を把握、段階に合わせたコミュニケーション施策の検討に有用です。

デジタルマーケティングへの注目が高まる昨今、多くの企業が「認知」の獲得に注力しています。

施策の実行後も常にPDCAを回し、コミュニケーションのターゲットが正しいか確認・検証しましょう。

 

Exit戦略

新規事業の初期段階でEXIT戦略を検討して選択肢を確保すると、事業化が近づいたときにスムーズに移行できます。

事業の特性を整理し、事業部やJVの設立といった望ましい推進体制と事業の管理や拡大にとって重要な資本政策を策定します。

 

リスク・事業撤退条件

事業における短期・長期の脅威と機会を予測することが重要です。特に事業のコアを脅かす要素が何かを明確にする必要があります。ここでは「PEST分析」が有用です。

撤退基準を設定し、事業の成功・失敗ラインを明確にすると、損失を最低限に抑えられるでしょう。

 

リリース計画

顧客の反応を早期に得て問題に気づくためには、段階的にリリースすることが望ましいです。例えば、まずMVPを試用してもらい、次にコア機能のみに限定した製品をβテストとして提供し、その後に間接的な機能を追加して正式サービスへ移行するような形が考えられます。品質目標は各リリースの目的ごとに適切な水準で個別に設定しましょう。

 

チーム構築

事業開発におけるチームメンバーは、事業オーナーやエンジニア、デザイナーと言ったロールに関わらず、事業について最初にフィードバックや改善提案をもらえる相手でもあります。有意義な意見を多く得るためには、事業オーナーが実現したいビジョンや計画を積極的に共有し、疑問に答えることが欠かせません。チームメンバーも、言われたものを作るという意識ではなく、主体的に質問や意見を出すことが求められます。

 

事業オーナー/プロダクトオーナーを目指すあなたへ

事業化フェーズでは、事業アイデアの精度を高める切り口とフレームワークを取り上げました。これらを使って試行錯誤を繰り返し、行き詰まれば事業検討フェーズにも立ち戻ります。事業が成功した場合はもちろん、撤退しても確実なノウハウを蓄積することで、未来の成果が形作られます。

さあ、ここからが本番です!