はじめに

ここでは、新規事業立ち上げのプロセス「ステージ・ゲートプロセス」における「ソリューション検証(PSF)ステージ」を解説します。

※上図の各ステージをクリックすることで対応記事にジャンプできます。 新規事業立ち上げの全体概要を掴みたい方は、まず新規事業開発 ― ステージ・ゲートプロセスによる新規事業立ち上げを一読頂くことをお勧めします。

ソリューション検証(PSF)ステージとは

PSFとは、Problem Solution Fitの略で、解決案が適切かを検証するフェーズです。 事業オーナーは、顧客が検討している商品・サービスを利用する理由を明確に言語化し、プロダクトオーナーが課題解決できるソリューション及びプロトタイプを完成させます。 事業オーナーとプロダクトオーナーに対する期待については、事業オーナーとプロダクトオーナーをご参照ください。

アクティビティ 概要
ユーザーシナリオ整理 顧客が商品・サービスを認知し、商品に興味・関心を持ち、商品を購入するというような顧客の一連の行動を可視化するステップです。
プロトタイプ作成 顧客や内部関係者が確認・評価をして、商品・サービスの仕様を固めていくための試作品を開発するステップです。
顧客インタビュー(PSF) 作成したプロトタイプを用いて、顧客や内部関係者が確認・評価をして、商品・サービスの仕様を固めていくステップです。
市場競合・調査分析 「市場分析」では、対象市場全体の動向を基に、市場自体が魅力的かを示し、「競合分析」では、想定競合企業の動向や商品/サービス内容を基に、自社としてどのような特徴を有した商品/サービスにすべきかを示すステップです。
マーケティング戦略立案 どのような場所(メディア)でどのような施策を実施すると、商品・サービスへの認知獲得から購買検討まで顧客の感情を押し上げることができるかを考えるステップです。
セールス戦略立案 ビジネスが成功するためのシナリオを描き、目標達成するための計画を策定するステップです。
収益性分析 ビジネスにおいてどれくらい売上を上げれば利益が出るのか、言いかえればどれくらい売上を上げないと赤字になってしまうのかを見極めるステップです。
エキスパートレビュー デザイン原則や経験則の知見を持ったUXの専門家が商品・サービスを検証したり、ストラテジックプランナーやマーケターがマーケ/セールス面について分析し、問題点の指摘と改善方法の提案をレポートするステップです。
PSF審査準備 審査に向けて、ここまでの活動で検討/検証した内容を整理・統合します。
PSF審査 審査観点に従って、企画を審査するステップです。

ユーザーシナリオ整理

概要

顧客が商品・サービスを認知し、興味・関心を持ち、商品を購入し、利用する、というような顧客の一連の行動をフレームワークを用いて可視化するステップです。

事業を推進する中で、自分たちの目線でサービスを考えてしまいがちですが、顧客の行動や心理を明確化することで、顧客目線で事業案を評価できるようになります。

実施手順

顧客の一連のフローを可視化するまでの流れは以下になります。

1. ペルソナを確認する
  • CPF で設定したペルソナを改めて確認しましょう
2. ペルソナの行動を仮説で設計する
  • 設定したペルソナが、自社の商品・サービスを購入するまでにどのような行動を取るのかを仮説で設計してみます
  • ここでは、顧客の行動をフェーズごとに考えてみましょう。フェーズには、後ほどお話するフレームワークの横軸である「認知」→「興味・関心」→「比較検討」→「購入」→「利用」を利用します。各フェーズでペルソナがどのような行動を取るのか、洗い出し、整理しておきます
  • このフェーズの設定はあくまで一例です。例えば、ホテル宿泊予約サービスであれば、「購入」→「利用」ではなく、「利用」の部分が「ホテル一覧」→「ホテル基本情報」→「宿泊プラン」→「予約(=購入)」のような順番になります
  • 上記例のように、詳細にフェーズを作ることで、顧客を深く理解することができるようになります
3. ペルソナの行動を固める
  • 上記のステップごとに洗い出したペルソナの行動が正しいかどうか、設定したペルソナが取らないような行動がないか確認してみましょう。近くにペルソナに近い人がいるなら、クイックに違和感がないかヒアリングしてみるのも一つの手です
4. フレームワークを決定する
  • 続いて、フレームワークを決めます。慣れないうちは、下記のようにシンプルなフレームワークを使うと良いかもしれません
  • 横軸:「認知」「興味・関心」「比較検討」「購入」「利用」
  • 縦軸:「タッチポイント・行動」「思考」「感情」
  • 「タッチポイント」はユーザーと商品・サービスの接点を指し、Webサービス、SNSなどが当てはまります
  • 「行動」はユーザーがそのフェーズでとる行動を、「思考」、「感情」は、その行動をとるときに、抱いている思考・思考を指します

フォーマット

フォーマット

5. 内容を書き込む
  • 上記フレームワークが埋まるようにそれぞれの項目に内容を書き込んでいきます。考えている解決策を顧客の行動に当てはめてみて違和感がないか、丁寧に確認しながら進めていきましょう
  • また、この時のポイントは、視覚的に分かりやすく記載することです。ただ文章を並べるのではなく、図・アイコンを多く用いることで、ひと目で分かるようなマップに仕上げることを意識しましょう。最後に漏れがないか確認し、全ての情報が書き込まれたらマップは完成となります

入力例

入力例

コツ/注意点

周囲の人間に、バイアスがかかっていないか確認してもらう

自分の視点/体験に引っ張られている可能性があるため、複数の周囲の人に確認してもらいましょう。

内容整理は費やす時間をあらかじめ決めて実施

時間を決めて取り組むことで、自分一人で思いつかない場合に区切りをつけ、他の人の意見をもらうようにしましょう。

次のプロトタイプ作成を意識する

「プロトタイプ作成」につなげるため、現時点での理想(仮説)となる解決策をしっかりと定義し、それをどう使ってもらうかまでを可視化(フロー化)することを意識してください。

プロトタイプ作成

概要

顧客や内部関係者が確認・評価をして、商品・サービスの仕様を固めていくための試作品を開発するステップです。

プロトタイプを作ることで、顧客のより具体的なフィードバックを得ることができ、商品・サービスのアップデートに貢献できます。

実施手順

プロトタイプを作る上で、以下が完了していることが前提となります。

  • 顧客と課題が存在することを検証できていること
  • 課題解決のための要件が洗い出せていること
    ※この時点で要件は仮説でも可

上記の確認が終わったら、まずは検証項目を策定します。

  1. 解決策の価値提供に対して顧客がお金を払ってでも使いたいと思うか? を確認するための質問のあり方を検討
  2. ソリューション/提供価値仮説の要件の重要度に応じて分類し、検証項目を設定

続いて、プロトタイプを選定します。

  • 選定基準
    • 得られるフィードバックの具体性(=投下できるコストや期間)
    • 現時点の解決策の蓋然性
      • 受容性と有効性どちらを主に検証するか等
        ※上記に従って適切なプロトタイプを選定する

プロトタイピング手法と位置付け

プロトタイピング手法と位置付け

プロトタイプの分類方法/定義は様々ありますが、以下一例を紹介します。

  • 種類
    • キャッチコピー/プレスリリース
    • ダーティープロト
    • ペーパープロト
    • クラウドファンディング
    • コンセプトムービー
    • LP(サービス紹介ページ)
    • ワイヤーフレーム
    • デザインプロト(外観モデル)
    • モックアップ
    • オペレーショナルプロト(手作業/既存品組み合わせ)
    • ファンクショナルプロト(機能施策)

プロトタイピング手法ごとの特徴やポイント

プロトタイピング手法ごとの特徴やポイント

プロトタイプ選定後、プロトタイプを作成していきます。

コツ/注意点

プロトタイプを作ることを目的化しない

プロトタイプはあくまで完成形となるプロダクトの仕様検討や、アイデア自体のブラッシュアップにつなげることが目的であり、プロトタイプ開発自体が目的化してはいけません。

プロトタイプに要件を盛り込みすぎない

要件を過剰に盛り込んでいる場合、ターゲットユーザーや内部関係者に対して確認するポイントが曖昧になり、検証が失敗する可能性が高くなってしまいます。

プロトタイプ作成プロセス

本章では、「プロトタイピング」のプロセスについて定義します1

プロトタイピングは、デザインの忠実度(fidelity)を高めていくためのものです。 プロダクトのイメージを具体化・詳細化していくために、プロトタイプを作成し、ユーザー視点で評価し、必要な改修点をプロトタイプに反映してプロダクトとデザインの忠実度を上げていきます。 従って、プロトタイピングは反復的なプロセスになります。

プロトタイピング

プロトタイピング

前章で述べた通りプロトタイプにはさまざまな分類がありますが、本プロセスで示すのはペーパープロトからワイヤーフレーム、デザインプロトへと手法を発展させ、この忠実度を高めていく過程です。

「忠実度(fidelity)」は、完成したデザインに対してどのくらい「本物っぽいか」を意味しており、最終的なプロダクトにどのくらい近いかを指します。 このように書くと、作成するプロトタイプは忠実度の高い方が望ましいように見えますが必ずしもそうではありません。

忠実度 メリット
低 (low-fidelity) ・細かな点にこだわることなく、コアとなるアイデアの表現に集中できる
・短時間でユーザーのフィードバックを反映できる
・技術的スキルを必要とせず、誰もが理解でき、修正が可能
高 (high-fidelity) ・ユーザーにとってプロダクトが容易に想像でき、解像度の高いフィードバックが得やすい
・プロダクトを開発する前にプロダクト像が想像・共有できるようになり、開発コストの見積もりがしやすい

例えば、初期段階の評価で重要なのは、見た目の良し悪しではなく、本質的な機能が何かという適切な判断です。 製品イメージが異なっている場合には作り直すことが必要になるため、いかに簡単に作り直すことができるかが重要なポイントになります。

忠実度の低いプロトタイプは、紙とペンだけを用いて作れます。 そうして生まれたペーパープロトを用いて、頭の中のアイデアを概要レベルのデザイン案として素早く確認でき、ユーザー体験や実現するプロダクトが視覚化されます。 視覚化できれば、チームメンバーの間でもプロダクトイメージや方向性を明確に把握できるとともに、ユーザーからのフィードバックも得られます。

一方で、忠実度の高いプロトタイプには必要なデザインやコンポーネント、インタラクションが組み込まれ、最終的なプロダクトへ近くなります。 FigmaやAdobe XD等のツールで作成することになるでしょう。

このような、より「本物」に近いプロトタイプによって、ビジュアル、機能・インタラクションについてのユーザビリティ、ワークフロー上の問題の有無といった評価ができます。

本書では、プロダクトとデザインを明確化するために以下4つのフェーズを定義します。

フェーズ 主体 プロトタイプの形態
プロダクト・デザインを明確化するための検討フェーズ 事業オーナー ペーパープロト
振る舞いと認知の検討フェーズ デザイナー ワイヤーフレーム
見た目のデザインの検討フェーズ デザイナー デザインプロト
デザインの洗練フェーズ デザイナー デザインプロト

一度にプロダクト全体のプロトタイピングをおこなっていくのではなく、 課題検証(CPF)ステージで発見したユーザーの課題を解決する機能を検討し、その個々の機能に対して上述の4フェーズを進めます。 これらのフェーズで、プロトタイプを作りながらプロダクト・デザインの忠実度を上げていくことになります。

なお、1つのプロトタイプを作って評価すれば次の段階に進んで良いわけではなく、評価結果によっては前の段階に戻ってプロトタイプを修正し再度評価することも多々ある点に注意してください。

評価基準については、プロダクトによって変化しますが、コンセプトテストの尺度を基準とすることで効果的な評価が可能です。2

評価基準 詳細
わかりやすさ この商品説明は、充分にわかりやすいか
ニーズ合致度 この商品は、あなたのニーズにあっていると思うか
共感性 この利用シナリオに対して、どの程度共感しますか
魅力度 この商品に対して、どの程度魅力を感じますか
新規性 この商品を目新しいと感じますか
経験意欲 利用シナリオにあるような利用経験をしてみたいか
購入意欲 この商品が妥当な価格なら買ってみたいと思うか

また、実際の現場においてプロトタイプの段階からデザイナーがいるとは限りません。 その場合は、オブジェクト指向UIデザインという方法論を学んでおくとプロダクト・デザインの忠実度を上げていく際に役立ちます。 オブジェクト指向UIデザインを適用した事例は、アップサイクル事業のトレイルを参照ください。

検討段階

検討段階

プロダクト・デザインを明確化するための検討フェーズ

本フェーズでは、以下を行います。

  1. カスタマージャーニーに沿ってデザインコンセプトの策定
  2. 策定したデザインコンセプトからデザイン対象物についてのペーパープロトを作成
  3. 想定するユーザーの行動とペーパープロトを見比べながら、当該の画面遷移・画面イメージでユーザーの課題が解決できるのか、良好なUXを提供できるのかを評価

この作業は、実質的に顧客の課題に対するソリューションが何かをアウトプットすることになるため、事業オーナーが実施します。

デザイン対象物の基本的な構造、UXを実現するための構造の検討が行われていることが重要であり、 画面間のつながりなどは十分検討できなくても問題ありません。 評価結果をもとに、ユーザーが情報を整理しやすく、またユーザー自身が情報を探しやすくなるような構造を検討・設計します。

振る舞いと認知の検討フェーズ

本フェーズでは、ユーザーが行う一連の流れを想定したプロトタイプを作成し、具体的なナビゲーションのデザインやレイアウト、インタフェースの動きを詳細に検討します。 具体的には、前フェーズで作成したペーパープロトから忠実度の低いワイヤーフレームを作成することで、簡易にデザイン対象物の動作を表現して評価していきます。

この作業は、デザイン対象物の基本的な振る舞いを検討するため、デザイナーが主体となって実施することを想定しています。

想定するユーザーの行動に沿ってデザイン対象物の基本的な振る舞いを確認しながら、可能であれば業務の専門家やUXデザイナーの専門家で評価し、具体的なナビゲーションのデザインやレイアウト、インタフェースの動きやアニメーションなどを検討します。 また、感情面では意欲を高めて維持するためのメタファーやモチーフなどの検討が必要です。

見た目のデザインの検討フェーズ

本フェーズでは、忠実度の高いワイヤーフレームを作成し、実際のプロダクトにより近い形でユーザーとの接点となるインタフェース、デザインの検討をします。この作業は、インタフェースや外観などの見た目のデザインを作成するためデザイナーが主体となって実施することを想定しています。

具体的には、プロトタイピングツールを使い、PCやスマートフォンでインタラクションを手軽に試しながら評価し、使いやすく操作を誤りにくい表現・わかりやすく誤解しにくい表現を検討します。 誤りや誤解は一連の操作の流れの中で起こるため、プロトタイピングツールを使い、ユーザー参加による評価によって改善に役立つ情報を得ることができます。

実際のユーザーに近い形で検証・評価を実施できるのが望ましいですが、それが難しい場合は社内の協力者等の協力を得て実施することで、より多くの改善に役立つ情報を得られるはずです。

デザインの洗練フェーズ

本フェーズでは、デザインする範囲を広げ、より完成形に近い状態のプロトタイプを作成しユーザビリティ上の問題点を改善します。

この作業は、UXの問題点を発見し改善をおこなうためデザイナーが主体となって実施することを想定しています。 ユーザー参加によるユーザビリティテストを実施することで、プロトタイプがどれだけ使いやすいかを評価できます。

具体的には、ユーザーの操作方法や感じ方の仮説を立て、実際の利用文脈を想定したタスクを設計しプロトタイプを利用してもらいます。 その結果、どの程度使いやすいか使いにくいかの問題が明らかになり、プロダクトの課題が発見できます。

プロトタイププロセスの見える化のためのプロトタイプカンバンボードについて

上記で述べたように、プロトタイピングのプロセスは反復的なものです。 各機能ごとに反復プロセスを繰り返していくようなケースでは、自分たちが今どの課題に取り組んでいて、どの機能にフォーカスしているのかを可視化すべきです。そうすることで、チーム内で取り組んでいる機能とそのフェーズが共有できます。

この用途に対し、スクラム等でよく使われるのがカンバンボードです。 カンバンボードとは、作業を視覚化し、進行中の作業(WIP)の数を制限し、効率を最大化するために設計されたアジャイルプロジェクトの管理ツールです。

特にプロトタイピング用のカンバンボードが「プロトタイプカンバンボード」3です。これは下図のように、課題検証で明らかになった顧客の課題や当該課題を解決するための機能案、それらの機能に対するプロトタイプの状況等をカンバンとして表現するものです。

プロトタイプカンバンボード

プロトタイプカンバンボード

これにより、以下のメリットが得られます。

  • プロセスを見える化することにより、検証プロセスが明確になり、メンバー間のコミュニケーションが活性化する
  • 適切なタイミングでフィードバックを得るというプロセスを担保できる
  • ボトルネックになっている場所が明確になり、リソースを適切に配分しやすくなる

顧客インタビュー(PSF)

概要

前のアクティビティ「 プロトタイプ作成」にて作成したプロトタイプを用いて、顧客や内部関係者が確認・評価をして、商品・サービスの仕様を固めていくステップです。

ここで仕様を固めることで、製品開発スピードを飛躍的に上げることができます。

実施手順

検証の目的に応じて、プロトタイプを、どのように顧客に利用してもらうかを検討します。

  • 検証方法一例
    • インタビュー
    • セールス
    • Webマーケ
    • アンケート
    • 展示会
    • クラウドファンディング

その後、以下の内容を中心にして顧客に聞きます。

1. お金を払ってでもほしいものになっているか、インタビューする
  • マネタイズの可能性を確認する質問ではなく、あくまで商品・サービスの受容性を、間接的に検証するための質問という位置付けになります
  • 商品・サービスの受容度合いがある程度測れたり、今後の価格設定の1つの材料になるので、「この商品・サービスに対して実際どの程度お金を払えるか」も確認しておきましょう
2. 提供価値を実現するために必ず必要な機能をオープンクエスチョンで確認する
  • 検証対象となる提供価値を顧客に提示した際、同時に提供価値の実現にあたって、なくてはならない機能は何か?
  • 実装されているがなくてもよい機能(→nice to have機能に再分類)、必須だが備わっていない機能(→must have機能として実装)は何か?

事業化を進める中で、「もしかしたらこんな層にも受け入れられるかもしれない」という別の顧客イメージがある場合、そういった層へのインタビューを行えると、市場拡大の可能性の発見することに繋がるかもしれません。

コツ/注意点

お客様ではなく、仲間になってもらう意識で良好な関係を築く

フィードバックの中身がとても重要なので、距離を近づけた方が、より深いコメントが得られます。プロトタイプの検証は1回で終わるものではないので、前回使った時よりも具体的に何が良くて、何が悪くなってしまったのか聞ける点でもとても意味があります。

具体的な答えを収集できる質問項目を作る

プロトタイプを使ってもらうことで得たユーザーの声を、問題解決に活かさないと意味がありません。フィードバックを全て対象者に委ねるのではなく、正確な情報がもらえるような質問項目をつくることが大切です。

たとえば新型のヘッドホンを使ってもらったとすれば、「このヘッドホンで使いにくい点は何ですか?」という曖昧な質問の仕方ではなく、「音質を5段階で評価してください」「着け心地の良さを5段階で評価してください」など、ポイントを絞って回答が得られるようにすると良いでしょう。

市場競合・調査分析

概要

前のアクティビティ「顧客インタビュー(PSF)」を通じて商品・サービスに関する顧客の反応を確認した後は、商品・サービスに関するマクロ動向=市場と、そこでの競争相手=競合の分析を進めていきます。 「市場分析」では、対象市場全体の動向を基に市場自体が魅力的かを示し、「競合分析」では、想定競合企業の動向や商品/サービス内容を基に自社としてどのような特徴を有した商品/サービスにすべきかを示すステップです。

実施手順

市場分析、競合分析を実施する流れについてご紹介します。

1. 市場分析を実施する
  • 関連市場の特定:商品/サービスが属する、もしくは商品/サービスの盛衰に影響しうる市場を特定
  • 市場規模推移調査:上記で特定した市場の市場規模推移・将来予測を調査。政府統計(国勢調査・商業統計等)や民間調査レポート(矢野経済研究所等)を主に活用
  • 市場トピックの把握:直近の法令改正状況・技術動向・代替市場動向等、当該市場に影響を与えうるトピックを把握 以下、市場分析結果として国内ポイントサービス市場の例示となります。

市場分析例

市場分析例

2. 競合分析を実施する
  • 競合となりうる商品/サービス洗い出し:自社商品/サービスの競合となりうる商品/サービスを洗い出す。狭義の競合商品/サービス(=同様の課題解決手法)のみならず、広義の競合商品/サービス(=同様の課題を異なる手法で解決)まで広げられると尚良し
  • 競合となりうる商品/サービスの分析:競合となりうる商品/サービスをそれぞれ調査し、対象とする顧客、解決する課題、主要機能・提供方法・価格等を比較分析
  • 自社における商品/サービス要素洗い出し:競合となりうる商品/サービスの分析結果を踏まえ、自社の商品/サービスとして具備すべき機能や価格を設定

以下、競合分析の評価軸例です。

競合文分析軸

競合文分析軸

コツ/注意点

そのものズバリの参入する市場が現在存在しない場合

ターゲット顧客の数/推移/動向で代替します。

競合分析は何度も行う

競合分析の見直し(またはアップデート)を怠ると、事業戦略が無意味なものになってしまう可能性があるので、小まめにリサーチしましょう。

マーケティング戦略立案

概要

どのような場所(メディア)でどのような施策を実施すると、商品・サービスへの認知獲得から購買検討まで顧客の感情を押し上げることができるかを考えるステップです。

顧客への正しいアプローチ方法を検討することで、効率良く商品・サービスを届けることができます。

実施手順

1. 購買に至るプロセスについて検討する

一例ですが、認知→課題認識→解決策模索(比較検討)、という順序が一般的なプロセスになります。

続いて、購買プロセスの中で顧客がどのような状態であるかについて検討してみましょう。

一例ですが、以下のような順序が一般的です。

  1. 匿名リード(氏名、連絡先などの情報が取得できていない、個人を特定できない潜在的な見込み客)
  2. リード(企業の商品・サービスに興味を持ってくれていて、将来的に購入してもらえることが予測できる顧客)
  3. ホットリード(商品・サービスに対する興味関心度が高く、購買までもう少しの段階にある見込み顧客)
  4. 有望リード(ほぼ購買することを決めている顧客)、

次に、各購買プロセスで、どんな場所(メディア)でアプローチすべきか検討してみましょう。以下、場所(メディア)例です。

  • 認知
    • オンライン
      • ソーシャルメディア
      • インフルエンサー
      • コンテンツ
      • マーケティング
      • テレビCM
      • プレスリリース
    • オフライン
      • リスト購入/コール
      • 展示会
  • 課題認識
    • オンライン
      • SNS広告
      • 記事広告
      • SEO(情報探索ワード)
        情報探索ワード:何らかの情報を「知りたい」という意志がある検索ワード
      • ホワイトペーパー
    • オフライン
      • DM(郵送/FAX)
      • セミナー
  • 解決策模索(比較検討)
    • オンライン
      • リスティング広告
      • Webサイト改善
      • SEO(購入ワード)
        購入ワード:ある特定の商品・サービスを「買いたい」という意志がある検索ワード
      • メールマガジン~LP誘導
    • オフライン
      • インサイドセールス
      • 代理店からのアプローチ

前のアクティビティ「市場競合・調査分析」を通じて把握した市場に属する商品・サービスや、競合の戦略も考慮に入れ、参考にすべき部分は参考にし(同質化)、違いを出す部分も検討しましょう(差別化)。

上記の検討が済んだら、実際に施策の中身を検討してみましょう。

コツ/注意点

想定している顧客がどのようなメディアに触れているか、どのような場所に行くかをまず想像する

施策から考えるのではなく、顧客の普段の活動から検討すると施策の選定がしやすくなります。

施策の中身はベンチマークしている企業や競合からヒントを得る

先行事例をリサーチした上で、具体的な施策を検討すると進めやすくなります。

ペルソナを広げない

エンドユーザー向けビジネスは、どうしても範囲が広くなってしまうので、マーケティング施策が曖昧になりがちです。ペルソナを絞って、具体的なマーケティング施策を検討します。

セールス戦略立案

概要

ビジネスが成功するためのシナリオを描き、目標達成するための計画を策定するステップです。

前のアクティビティ「マーケティング戦略立案」にて策定したマーケティング戦略が正しいかどうかをこのステップで精緻化・具体化していきます。また、チームメンバーの意思統一をするために欠かせません。

実施手順

以下が大まかな流れです。

1. いつまでに何を達成しないといけないかを決める
  • いつまでに何を達成しないといけないのかを確認し、すり合わせを行いましょう。目標を設定したら、しっかりとその理由も明確にしましょう
2. 実施期間と具体的な数値目標を決める
  • 上記でゴール設定ができたら、期間を区切って、それぞれの数値目標を立てましょう。具体的な数値が示されると、ゴールが定まり、チームの士気が上がります
3. 商品・サービスの価格を設定する
  • いくらで販売するのか、できそうなのか、顧客目線と開発目線で検討しましょう。どのくらいの量を販売するのかによってもコストが変動するので、その視点も忘れないでください
4. 商品・サービスをどこで販売するのか決める
  • ECサイトで販売するのか、店舗で販売するのか、はたまた小売店に卸して販売するのか。顧客が商品を買おうと思ったときに買える環境を考えましょう
5. マーケティング戦略を確認する
  • 前述で策定したマーケティング戦略を改めて齟齬がないか確認します
6. 営業プロセスを作成する
  • 広告・Webサイト経由で獲得したリード顧客に対して、どうやって営業(アプローチ)していくかプロセスを確認します
  • 例えば、以下の図のように関係者ごとにそれぞれのフェーズでどんなアクションがあるのか整理するとわかりやすくなります

営業プロセス

営業プロセス

7. 見込み客リストを作成する
  • リード獲得後に使用する見込み客リストを作成します
  • BtoBの場合は以下の内容のように詳細な情報を入れましょう。BtoCの場合は、取得できる情報を入れられるようにしてください 市場分析例

市場分析例

8. 提案・交渉条件を策定する
  • 顧客のセグメントによって、伝える内容を変えましょう
  • BtoCの場合は、何を売り文句にするのかキャッチコピーを考えましょう。BtoBの場合は、提案する資料の構成やメッセージを検討しましょう
  • 加えて、顧客セグメントで、値引きをするのか・特典をつけるのかなど、交渉条件を整理しましょう
9. 契約締結について
  • BtoCの場合は利用規約を作り、それに同意している前提で購入できる状況を生み出します
  • BtoBの場合は契約書を作り、その内容を前提にすり合わせができる状況を生み出しましょう
  • どちらの場合でも、弁護士や法務に相談し、何を事業として守らなければならないのかの視点で項目を洗い出しましょう
10. 売上管理方法を策定する
  • 顧客の基本情報、 購入履歴、アフターフォロー含むやりとりの記録を残せるように準備しておきましょう
  • かつ、誰が担当者なのか、誰が責任者なのか、所在をハッキリさせましょう
  • 顧客管理ツールは世の中にたくさん存在するので、どれが良さそうかリサーチしておきましょう

コツ/注意点

あまりに高すぎる目標を設定しない

現実離れした目標は社員のモチベーションを下げてしまうので、妥当性も考慮した目標を設定することが大切です。

数字だけ掲げるのは避けること

数字だけを掲げても、「なぜその数字を達成しなければいけないのか?」という疑問が残る以上、最大パフォーマンスは発揮できません。数字と合わせて目的や意義を提示することが大切です。

収益性分析

概要

ビジネスにおいてどれくらい売上を上げれば利益が出るのか、言いかえればどれくらい売上を上げないと赤字になってしまうのかを見極めるステップです。

ここまでのアクティビティ「マーケティング戦略立案」「セールス戦略立案」を通じて検討した内容も踏まえて費用構造を理解することで、目標利益を実現する上で必要な売上高を求めたり、価格設定やコストダウン施策のヒントにできます。

実施手順

以下の順番で分析を進めていきます。

1. LTVとCACを確認する
  • まずは最低限の収益性の状態として、LTV≧CACの関係が成立しているか確認します
  • LTVとは、「Life Time Value」の略称で、日本語では「顧客生涯価値」と呼ばれています。ある顧客が、取引を開始してから終了するまでの期間に、自社に対してどれだけ利益をもたらしたか、収益の総額を算出するための指標です
  • CACとは、「Customer Acquisition Cost」の略であり、日本語では「顧客獲得費用」を意味します。具体的には、顧客1社を獲得するために必要となるマーケティングや営業のコストのことを指し、ある一定期間に投資したマーケティングおよび営業コストの合計金額を獲得した顧客の数で割ることによって算出します

ユニットエコノミクス

ユニットエコノミクス

2. より具体的な収益性を確認する
  • 変動費の数字と内訳を洗い出す
    • 変動費とは、売上(生産量・販売量)に比例して増減する費用のことで、原材料費、仕入原価、販売手数料、外注費などが挙げられます
    • 一つ作るあたりのコストだと捉えるとわかりやすいです
  • 固定費の数字と内訳を洗い出す
    • 固定費とは、生産量や販売量の増減に関わらず一定にかかる費用のことで、人件費、広告宣伝費、減価償却費(開発等で先行投資が必要な場合)が必要な費用などが挙げられます
    • 月々の固定費として考えてみるとわかりやすくなります
  • 顧客インタビューで聞いた理想的な販売価格を確認
  • 利益が0のときの売上高「損益分岐点売上高」を算出する
    • 計算式=固定費÷{1 -(変動費÷理想的な販売価格)}
  • X軸(数量)、Y軸(売上/コスト)を作る(損失をイメージ)
    • 固定費をY軸のコストの起点に入れます。また、損益分岐点売上高の金額も書き入れ、それを達成するためをX軸の数量に記載します。交点よりも左は損失となりますので、斜線などを引いて「損失」と書いておきます
  • X軸、Y軸を作る(利益をイメージ)
    • 損益分岐点の右領域は黒字で、利益が出ている状態です。斜線などを引いて、「利益」を書いておきます。目標としている数量と売上高も記入してください
  • 理想的な販売価格を実現できそうか確認する -「 〇〇個売れれば、●円の利益が出る」というように目標売上数の時にどのくらい利益が出るか算出してみてください
    • 上記の時に、あまりにもありえない数を売らないと成立しないようなことがあれば、変動費、固定費のコストダウンを検討してください
    • もしくは、販売価格を上げられそうかの視点でも評価してください

損益分岐点売上高

コツ/注意点

この分析の際、便宜的に以下の前提を置いていることを理解する
  • 生産量と販売量は等しいものとする
  • 販売価格は一定とする
  • (複数の製品がある場合)製品ミックスは一定とする
  • 単位当たりの変動費は一定とする
  • 固定費は一定とする

エキスパートレビュー

概要

デザイン原則や経験則の知見を持ったUXの専門家が商品・サービスを検証したり、ストラテジックプランナーやマーケターがマーケ/セールス面について分析し、問題点の指摘と改善方法の提案をレポートするステップです。

通常のレビューで得られる課題の検知だけでなく、専門家による具体的なアドバイスや改善方法の提案までを受けられます。

実施手順

基本的には、エキスパートレビューをサービスとして提供している企業に依頼するのが効率的です。以下が大まかな流れです。

1. 計画
  • エキスパートレビューの目的、目的を達成するための方法、どの企業に依頼すべきか、を検討します
  • 依頼
    • 実施できる企業に上記内容で依頼をします
  • 評価指標の設定
    • 評価する対象が決まったら、分析者の主観が影響することを防ぐため、どの観点で評価するかの指標を決めます
  • 評価の実施
    • 上記で定めた指標をもとに、チェックしたい項目をリスト化しておくと効率的です。チェックリストをもとに確認し、問題があると感じた箇所をリストアップしていきます
  • データ分析〜レポート
    • 問題点を洗い出した上で、評価対象の改善施策を作ります
  • 分析
    • レポート内容をもとに、アップデートしなければならない項目を整理します

コツ/注意点

n数が少ないため、結果に偏りが出る可能性がある

現実的に1,2名への依頼となる場合も多く、結果の信頼性と品質は、その専門家の知識と経験に依存してしまいます。ですので、まず5名を1つの目標値として、十分注意して依頼先を選定しましょう。

専門家が見つからない可能性があるので、事前にネットワークを共有しておく

専門家を見つけることは容易ではありません。個々人の伝手に頼らず、組織的にネットワークを共有しておきましょう。


  1. ここで定義するプロセスについては、『UXデザインの教科書』の内容を大いに参考にしました。↩︎
  2. 上野学、藤井幸多、『オブジェクト指向UIデザイン–使いやすいソフトウェアの原理』、技術評論社、2020。↩︎
  3. 田所雅之、『起業の科学-スタートアップサイエンス』、日経BP、2017。↩︎