はじめに

ここでは、新規事業立ち上げのプロセス「ステージ・ゲートプロセス」における「課題検証(CPF)ステージ」を解説します。

※上図の各ステージをクリックすることで対応記事にジャンプできます。

新規事業立ち上げの全体概要を掴みたい方は、まず新規事業開発 ― ステージ・ゲートプロセスによる新規事業立ち上げを一読頂くことをお勧めします。

課題検証(CPF)ステージとは

CPFとは、Customer Problem Fitの略で、顧客が課題を持っているかを検証するフェーズです。

顧客が持つ、まだ解決されていない課題(仮説)の言語化と精緻化を行います。

アクティビティ 概要
顧客定義 事業にお金を払ってくれる人=顧客を設定するステップです。
課題仮説定義 顧客の課題(=お金を払ってでも解決したいもの)を深掘りするステップです。
顧客インタビュー(CPF) 顧客が抱える「お金を払ってでも解決したい課題」かどうか、インタビューを通じて理解するステップです。
バーニングニーズの発見と検証 本当に、顧客が速やかな解決を求める課題なのかを客観的に評価するステップです。
CPF審査準備 審査に向けて、ここまでの活動で検討/検証した内容を整理・統合します。
CPF審査 審査観点に従って、企画を審査するステップです。

顧客定義

概要

事業にお金を払ってくれる人=顧客を設定するステップです。
ここまでのアクティビティ「企画検討」の内容をさらに具体的な顧客像(=ペルソナ)に落とし込むことで、その人の生活がイメージしやすくなり、抱えている困り事や問題点を発見しやすくなります。

実施手順

1. 「一人の人物」を想定して、そのプロフィールを、趣味や嗜好、価値観や行動パターンまで、かなり詳細に設定していく

あくまで、以下の内容は一例です。

  • 基本情報(名前/年齢/性別/最終学歴/居住地 など)
  • 何をしている人か(学生/勤務先・職業/主婦/パート など)
  • 生活様式(何時に勤務・退社か/インドア派かアウトドア派か など)
  • 性格
  • コミュニティ(家族・配偶者・恋人の有無/友達は浅く広くか など)
  • 収入・金銭感覚(すぐ使ってしまうのか・貯蓄をするタイプか など)
  • 趣味
  • 流行への感度(新しいプロダクトをすぐ使用するのか・情報をこまめに得るタイプなのか など)
2. 企業向けアイデアの場合は、「企業」と「企業の担当者」の2つのペルソナを合わせた形式になる
  • 企業の情報(会社名/会社の規模/業種/会社の課題 など)
  • 担当者の情報(名前年齢/性別/所属部門/役職/決裁権の有無/対象業務年数 など)
  • 部門の情報(体制/業務内容)
3. 上記で顧客が定義できたら、どのくらいの数がいそうなのかを確認する
  • toCの場合は、e-statなどで検討した顧客がいそうかを調べてみましょう
  • toBの場合は、Baseconnectが良いでしょう

コツ/注意点

初期顧客として考えてみる

事業が拡大したときの顧客を考えると、複雑かつ多方面の検討が必要になるので、まずは最初に自分の考えたサービスを買ってくれる人を想像すると、迷いがなくなり書きやすくなります。

ペルソナに優先順位をつける

元々のターゲット戦略が広く、複数のペルソナが考えられる場合は、この段階で簡易的なペルソナをいくつか作っておくことをおすすめします。そうすることで、後々どの候補を深く作り込んでいくか、優先順位をつけやすくなります。

本当に存在するか、客観的に振り返る

存在しない人物/企業を設定しないよう、きちんと存在するかどうか客観的に判断してみてください。

想定する課題の保有状況に差分が生まれそうな”軸”を複数検討する

軸により切り分けられたそれぞれが「セグメント」で、検証では「セグメント間の比較」を行います。顧客をセグメントすることで、顧客を分解でき、課題の具体性も上がります。

  • セグメント例
    • toCの場合
      • 年齢
      • 性別
      • 居住地
      • 世帯構成
      • 職業
      • 年収
      • ITリテラシー
      • 興味・関心
      • 競合・代替品の利用状況
    • toBの場合
      • 上場 / 非上場
      • 事業規模
      • 従業員数
      • 業種・業界
      • 人材の流動性
      • サプライチェーンにおける立ち位置

セグメント

セグメント

課題仮説定義

概要

前のアクティビティ「顧客定義」で検討した顧客の課題(=お金を払ってでも解決したいこと)を深掘りするステップです。
表面的な課題で満足せず、その発生要因まで深掘りをすることで、解決しなければならない課題を特定できます。

実施手順

1. 様々な観点で掘り下げ、構造化する

観点はいろいろ挙げられますが、ここでは5つ紹介します。

  • 具体性:具体的には何が課題なのか
  • 場面:どのような場面で発生している課題なのか
  • 発生要因:なぜそのような課題が発生しているのか
  • 未解決要因:なぜ既存の製品やサービスでは解決していないのか
  • 代替策:現状はその課題に対してどのように対処しようとしているのか
2. 発生要因を掘り下げる

1で出した課題を分解して掘り下げていくと、最初の課題を発生させている要因が出てくるはずです。この要因、すなわちお金を払ってでも解決したい課題を見つけることが重要です。

コツ/注意点

発生要因を突き詰めるためには「Why?」を問い続ける

課題を深掘りする際に、「なぜその課題が存在するのか」と自分に対して問いかけることで、要因を特定しやすくなります。あくまで目安ですが、大体3-5回程度繰り返すと、これ以上深掘りができなくなります。

課題の深堀りが不足すると…

解決すべき課題を特定できていない状態ということになるので、この後検討していく解決策が見当違いのものになってしまいます。

顧客インタビュー(CPF)

概要

顧客が抱える「お金を払ってでも解決したい課題」かどうか、インタビューを通じて理解するステップです。

ここまでのアクティビティ「顧客定義」「課題仮説定義」を通じて検討した顧客の課題を、顧客の声を通じて検証することで、取り組む意義や構築すべき解決策の解像度が高まります。

実施手順

顧客の課題を理解するまでの流れは以下になります。

1. 顧客/課題を整理する

まずは、顧客や課題を整理します。

2. インタビュー相手をリクルーティングする
  • 一般的には、5人(社)程度にインタビューすればある程度の傾向が分かるといわれているので、これを目安としてください。
    3人(社)程度でも多くの発見が得られる場合もあるので、どの程度スピード感を重視するかで最終的な人数を決めましょう。
    ただし、顧客インタビューに慣れていない人であれば、設定したペルソナと実際にインタビューした人との乖離も起きがちです。
    その場合は、10人(社)程度に増える可能性がありますが、しっかりとペルソナに近い人を見極めていきましょう
  • インタビュー相手の探し方は、「パネル会社(例:ビザスク、Spreadyなど)に依頼」「人脈を使う」の2種類に大別されます
  • もし上記で見つけられない場合は、「SNS経由での募集(拡散を含む)」、「想定顧客が集まるコミュニティ(例:FBコミュニティなど)での告知」、「想定顧客が集まるSNSアカウント(例:インスタグラマーのフォロワーなど)からDM経由で連絡」「LinkedInやFacebookのDM経由で連絡(著名人など、その人物像がよく分かっておりかつ想定顧客と一致する場合)」「ネットに記載してあるメールから問合せ/飛び込み電話(企業ヒアリングの場合)」などで実施してみましょう
3. インタビューの準備をする
  • インタビューが集まった後の得たい結果を明確にします
  • 得たい結果を明確にしてから、逆算して必要なインタビュー項目を列挙します。(必要十分な項目を意識する)
    • 課題を特定するために、代替手段を把握しましょう。具体的には、「今までに解決しようとしたか」「それはどの様な方法か」「どれくらいの費用をかけているか」「それらの代替手段の何が問題か」「それらの代替手段より優れた解決策があれば乗り換えたいか」の視点で質問してみましょう
  • 出てきた質問をまとめましょう(出てきた質問の中から「似ている質問内容」を大項目としてグルーピングする)
  • 質問の想定時間と優先度(高/中/低)を記載しましょう
  • 優先度「高」の項目のみでバッファ(約10分)込みの想定時間に収まっているか確認しましょう
  • インタビュー相手が回答しやすい順番に各項目の質問順序を決めましょう
4. インタビューを実施する

インタビューを実施します。

5. インタビュー結果をまとめる
  • インタビュー結果を元にインタビュー項目をブラッシュアップしましょう
    • 複数回のインタビューを重ねていく上で、質問の内容が伝わりにくいと感じた場合はチューニングしましょう
    • インタビュー先の個人(企業)によって回答の変わらない質問項目が見えた場合は、優先度を下げて他の質問項目の優先度を上げましょう
    • 元々の仮説と回答内容が異なることが多い場合、必要に応じて質問項目を更新しましょう
  • インタビュー結果を記載しましょう
    • 個人(企業)ごとにインタビュー結果が共通していることと、共通していないことを抽象化して、明確にしましょう
    • 共通していないことの理由を元に顧客セグメントを分割しましょう
    • 対象者一人の個人的な回答内容だとしても貴重な示唆になる可能性があるため、特記事項として残します

コツ/注意点

質問はオープン型で

Yes/Noで回答を求めるクローズド型ではなく、相手が自由に意見を発言できるオープン型の質問にすることで、質問攻めをしなくとも相手から課題に関するストーリーを引き出すことが可能になります。「昨日の旅行はどうでしたか?」「このお菓子についてどう思いますか?」のように、相手が自由に意見を発言できる質問になるべくしましょう。

感情移入しすぎない

インタビューをしていると感情移入する場合があるため、1件のインタビュー結果に引っ張られてしまわないよう、複数人にヒアリングしましょう。

第1版のヒアリング項目にとらわれない

インタビュー項目はブラッシュアップする前提で作成しましょう。

ヒアリング中は誘導するような質問はしない

話を聞くことに徹しましょう。

バーニングニーズの発見と検証

概要

本当に顧客が速やかな解決を求める課題なのかを客観的に評価するステップです。

前のアクティビティ「顧客インタビュー(CPF)」で得た声を客観的に評価することで、ソリューション検証(PSF)ステージ)に移行した後、スムーズに解決策検討に着手できます。

実施手順

以下のステップで評価していきます。

1. 課題の広さ:同様の課題を抱える顧客が世の中にどの程度いるのか

お金を払ってでも課題を解決したい人が十分な数存在するかを検証する必要があります。

  • 例)一人の課題<日本中の多くの人の課題<世界中の多くの人の課題
【検証方法】
  • 定量アンケート調査
    • 利用ケース
      • ターゲット顧客になり得るセグメント条件が多くあり、セグメントごとに何%ほど顧客になるか判断しづらい場合
    • 結果概要
      • ターゲット顧客のセグメントの明確化。各セグメント内で課題に感じている人の割合を出すことができる
  • インタビュー等で課題をターゲット顧客に提起した際のリアクションから調査
    • 利用ケース
      • ターゲット顧客のセグメントの深堀りが浅く、セグメントの条件分岐が曖昧な場合
    • 結果概要
      • 顧客の反応からターゲット顧客になり得るセグメント条件を推定し、ターゲット範囲を割り出すことができる
2. 課題の発生頻度:どの程度の頻度で課題が発生するのか

いくら課題感を持っている人が多くとも支払う額が小さく、頻度が少ない場合はマネタイズが出来ません(※ただし、頻度が低くても成り立つ高単価の場合やサブスク等の課金モデルの場合は頻度が低くても成立し得ます)。

  • 例)月1の課題<1日1回の課題<1日3回の課題
【検証方法】
  • 定量アンケート調査
    • 利用ケース
      • 発生頻度が画一的な場合
    • 結果概要
      • ターゲット顧客の頻度の平均や中央値/各セグメントの頻度が網羅的に把握できる
  • 顧客インタビュー
    • 利用ケース
      • 発生頻度が不定期な場合
    • 結果概要
      • 一定ユーザーの頻度とその頻度の決定要因まで把握できる
  • 顧客の行動観察やウェブ上の行動ログといったデータを分析
    • 利用ケース
      • 顧客自身が自覚して計測できない場合
    • 結果概要
      • 実際の行動やログからユーザー自身が認識できていない部分を把握できる
3. 課題の深さ/深刻さ:どの程度困っているか、悩んでいるのか

顕在ニーズの場合、これは課題解決のために既に支払っているコストの大きさで測ることができます。コストは金銭/時間/労力/それに伴う精神的な苦痛等でも良いですが、できるだけ具体的に把握することが必要になります。金銭の場合は何円で利用するのかまで確認が必要です。

潜在ニーズの場合、課題解決のために無意識化で顧客に与えている負荷を測ることで検証できます。顕在ニーズとは異なり、顧客から具体的な数値等を聞き出すことが難しくなります。

  • 例)多額のお金を払っている課題、多くの時間を使っている課題
【検証方法】
  • 顧客インタビュー
    • 利用ケース
      • 顕在ニーズの検証をする場合
    • 結果概要
      • 実際に支払っているコストから顧客の課題感を具体的に把握できる
  • 顧客の行動観察などの定性調査
    • 利用ケース
      • 潜在ニーズの検証をする場合
    • 結果概要
      • 実際の行動を「注視」「観察」し、無意識の行動の背景にある本人が気付いていない課題を把握できる
4. 課題の発生構造:課題は一過性のものではなく構造的に存在・拡大を続けるのか
  • 課題が一度解決したとしても、再度早い頻度で同じ課題が発生します。または、社会や情勢等の影響から発生数が上昇し、課題が拡大していくことです
    • 例)毎日着る衣服に関する課題、日本の少子高齢化に関する課題
【検証方法】
  • 顧客を取り巻く環境や社会情勢などを本やウェブ検索から情報収集
    • 利用ケース
      • 一過性の課題ではない場合
    • 結果概要
      • どのような周期で同じ課題が何回発生するのか。また、今後同様の課題を抱える人の増減傾向を把握できる

課題の深掘

課題の深掘

コツ/注意点

発見した課題のテーマや領域ごとに最重要論点は異なる

頻出する論点の全項目は検証すべきですが、論点ごとの深堀り度が異なります。

例)日常生活の中で生まれる課題なのか、将来の不安に対する課題なのか。日常生活であれば課題の発生頻度が重要ですが、将来の不安に対する課題であれば課題の深刻さが重要であったり、捉える課題によって、優先順位は変わります。

以下の観点でチェックするとより妥当性を担保できる
  • その顧客の抱えている課題の中でも、広さ・頻度・深さの観点で優先して解決すべきと言えるか?
  • もしくは、その課題が解決されれば、その顧客の抱えている他の課題が連鎖的に解決できると言えるか?
評価の結果と対応パターン
  1. 評価が十分にできない場合、改めて課題を深堀りして取り扱う課題を特定し、再度評価します
  2. 取り扱う課題の広さ・頻度・深さが不十分な場合、もしくは一過性な課題の場合、同じ顧客の別の課題に目を向けます
  3. 1, 2を実行しても、どの課題も広さ・頻度・深さが不十分な場合、もしくは一過性な課題の場合、別の顧客に目を向けます