はじめに

ここでは、新規事業立ち上げのプロセス「ステージ・ゲートプロセス」と当社でのその適応例を解説します。

新規事業立ち上げの全体概要を掴みたい方は、まず新規事業開発 ― ステージ・ゲートプロセスによる新規事業立ち上げを一読頂くことをお勧めします。

ステージ・ゲートプロセスとは

当社が新規事業開発に使用しているのは、「ステージ・ゲートプロセス」と呼ばれるプロセスです。

一般に、ステージ・ゲートプロセスは多産多死を前提に作られています。
プロセスを数段階の「ステージ」に区切り、ステージの間に「ゲート」を設け、そのゲートで事業アイデアをふるいにかけて絞り込んでいきます。
明確な基準を用い、ゲートで段階的に絞り込んでいくことで、以下のような投資の無駄を防ぎます1

  1. 基準が明示されていない結果として、事業化の出口が見えないまま滞留してしまう
  2. 事業化目前になってから致命的な問題が発覚し、事業開発が中止に追い込まれる
  3. フィージビリティスタディではある程度の市場が見込めたが、市場の環境が変わり、試作品はできても顧客が見つからなくなる

TISのステージ・ゲートプロセス

当社で用いているステージ・ゲートプロセス(以下、本プロセスという)は以下となります。

ステージ・ゲートプロセス

ステージ・ゲートプロセス

市場トレンドの変化への対応や「死の谷」2を回避するため、事業化の見極め期間は6ヵ月に設定しています。
この期間に、リーン・スタートアップ手法3 4やデザイン思考を基に、アイデアのブラッシュアップから想定顧客像の構築、ニーズの仮説構築、プロトタイプ(試作品)を通じた検証、顧客に価値を提供できる最小限のプロダクト開発・実証実験を行います。
それぞれのフェーズにゲートを設け、有識者を巻き込んで次フェーズへ進むレベルに達しているかを審議することにより、事業化に向けた精度向上を図っています。

ここにはCPFやPSF等、さまざまな略語が登場しますが、これらはスタートアップのフェーズとして登場するものです。概要は以下の図をご参照ください5

フェーズ

フェーズ

全ての創業チームに必要な力

創業チームに必要な力は以下の3つです。これは、『新規事業の実践論』6を参考にしています。

これらは新規事業開発の「チームとして」持っておくべきものです。
どれかに偏ってしまうと、新しい価値を生み社会実装をすることはできません。

必要な力 力の内容
Network 異分野をつなぎネットワークする力、自分とは異なる異分野・異業種の人たちとゼロから人間関係を構築する力。新規事業は、現場の人たちから深いインサイトを引き出すこと、異分野の人たちとの交流によって作られていく。閉じた人間関係からは生み出せない。
Execution あらゆる業務を圧倒的に実行しやり切る力。どれだけ大きなビジョンを語り、魅力的な事業アイデアを生み出せても、それを形にする過程はあらゆる「細かな作業」と「局地的な勝利」に他ならない。
Knowledge 深く広い知識と教養を継続的に身につけていく力。自分が何を知らないのかを知り、地道に多面的な知識と見識を身につける。

  1. 金子浩明・久保裕史、「化学系ブティック型(領域特定型)日本企業へのステージゲート法適用の課題と提案」、Journal of the International Association of P2M、Vol.9、No.1、pp.95-105、2014 (2022年3月11日閲覧)↩︎
  2. プロダクトの開発・販売をするための資金や戦略・事業開発、エンジニア、営業、人材などの経営資源を適切に調達できず倒産に至ること。↩︎
  3. エリック・リース・伊藤穣一・井口耕二、『リーン・スタートアップ』、日経BP、2019。↩︎
  4. 田所雅之、『起業の科学-スタートアップサイエンス』、日経BP、2017。↩︎
  5. 「スタートアップ・フィット・ジャーニー 今どの段階にいて、何に取り組むべきかのガイド」(2022年3月14日閲覧)を参考に作成。↩︎
  6. 麻生要一、『新規事業の実践論』、NewsPicksパブリッシング、2019。↩︎